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2023年3月11日

複雑さをたのしむ

最終更新: 2023年3月12日

意外に意識されていないが、学術論文を書く上で

重要な点に、単純さの回避がある。

そもそも単純すぎる記述は論文として成立しない。

換言すれば、具象的な事実をまとめただけでは、

論文にはならないのだ。

そこで欠かせないのが抽象思考である。

あらかじめ問いや仮説を立てることは基本だが、

一気にそれを解くのでなく(解けるわけもなく)、

自身で懐疑しながら、ああでもない、こうでもない

と粘りつつ匍匐前進していくようなイメージと

言ったら伝わるだろうか。

特に文系の場合、1対1対応の絶対的な答えなど

あらかじめ存在しない。

この地点に立脚すればこう言える、という限定

つきで、それでも仮の答えを出さねばならないのだ。

何だか「ないない」尽くしになってしまったが、

このような複雑さも、書き続けるうちに勘ができて

きて、進み方が体得できるものなのである。

やはりアカデミズムの世界も、上に行けば行くほど

「習うより慣れろ(己で)」となってくる。

難解さも、いわばエンジョイした者勝ち!

高度なゲームに興じるように、複雑さをたのしもう。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
磯崎新(いそざきあらた)『北九州市立美術館』

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