日本語空間

2020年11月29日

近代の風――自由闊達に――

大学入試の指導をしていた学生の方が、日本近代の名創業者

に関心があるということで、関連するテキストを、何冊か

一緒に読んでいました。

「経営史」というと、どことなく無味乾燥な名称ながら、実際

そこには、多種多様な工夫と挫折、成功の軌跡がうかがえる

のです。

彼らは、ビジネスを行いはしましたが、単なる金儲けのため

の金儲けではなく、近代の風に乗り、自由闊達にみずから

を恃(たの)み邁進していったのだともいえます。

私が今いる街では、1859年に「開港」という事件が起こり

ました。

その噂を聞きつけ、以前は見捨てられたような場所であった

無名の当地に、全国から商機を当て込んだひとびとが、文字

通り蝟集(いしゅう)してきます。

写真は、「新聞売りの小政(こまさ)」こと安藤政次郎

(あんどうまさじろう)。

彼は、刺し子半纏に草履履き、日の丸の旗を2本立てた黒塗り

のはさみ箱を担いだスタイルで評判となりました。

安藤は、当地で新聞販売所を経営したのち、故郷の豊橋に帰り、

養豚業を起こします。

元来、動物好きであった彼は、種々の動物を飼育し、それは

「安藤動物園」に発展しました。

新聞売り時代のシュッとした出で立ちとは異なりながら、この

時代には、呼び込みのため、うさぎの着ぐるみを身につけ、

来園者を楽しませたといいます。

無論、挫折や苦難もあったでしょうが、自由闊達に生きた安藤

の軌跡からは、爽快な風が吹いてくるようです。

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