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アナログ的手ざわり
電子音楽が一般的な人気を得る前のパリを舞台に、若き女性ミュージシャンが、
リズムマシンに魅了され、理解のない周囲をものともせず、自身の音楽を追求
していく姿を描いた映画「ショック・ドゥ・フューチャー」。
ストーリーのキーとなるそのリズムマシンは、1978年発売の日本製Roland CR-78。
アナログシンセサイザーは、機械音であっても、今聴くと、よい意味で「隙(すき)」
があり、優しい響きを奏でている。☆彡

長引くウィズコロナの状況は、オンライン授業やリモートワークなど、
人と人の距離を隔て、コミュニケーションを困難にした。
その反動からか、室内での活動を充実させようと、ペットを飼ったり、
屋内でキャンプをしたりする人が増え、いわゆる「巣ごもり景気」なる
ものが生じた。
中でも、最近、授業のトピックで扱った「アナログレコード人気」は、
特筆すべきものだろう。
以前から、レコードの時代を知る中高年者の間には、中古レコード愛好者
が、一定数存在した。
それがここにきて、若者の間で、アナログレコードがブームになっている
という。
生産現場は、フル稼働しているにもかかわらず、需要の高まりに追いつか
ないそうだ。

レコード人気の原因は、一つではないだろうが、人間の分断状態が続くなか、
手ざわりや温もりの感じられるものが、無意識に求められているのではないか。

コロナ以前から、SDGsと関わりのある「スローライフ」の動きは起きていたが、
そのような心性とも「アナログ」は共振しやすい。

ある状態が当然のようになり、それに慣れきってしまうと、人は現前する世界
を疑うこともなくなる。
日本も、前政権において、デジタル庁なるものを創設したが、真の需要を
見極めて、というよりは、遅まきながらウチもそれくらいはしとかないと、
といったどたどしさがあった。
以前、外国人学習者の方から、日本のデジタル化が進まない理由について、
「日本は、老人が機械を使えないからですよね」といわれ、驚いたことがある。
そんな風に考えたこともなかったし、一般の日本人は、そのように認識して
いないだろうから。
だが、何らかの理由があり、外側からはそう見える? のか。
理由を聞きそびれたのは、残念だったが、むしろ興味深かった。
デジタルか、アナログかというような二者択一の問題ではないし、
私自身、どちらかに優劣をつける気持ちはない。
しかし、利便性や合理性を優先し、無駄をそぎ落とし過ぎた結果、今日の
人心が疲弊していないとは誰もいえまい。
アナログレコードに「ちゃんと」手で触れ、針を落として、大切な「音」
を再生する!
そんな「手間」に、喜びが見出されているのだとすれば、人間が失われた
何かを回復しようとする一つの表れではないか、とも考えられるのだ。