- 日本語空間
セレンディピティを引き寄せよう
いざ論文を執筆する前に、テーマの決定、資料集め、
参考文献の選定、章立て等々、準備は多岐にわたる。
そういった地道な努力は必要だが、それとは別に
想像もしていなかった出会いに恵まれることもある。
たとえば、先行研究で見出されなかった資料の発見
や、関係者の証言を入手すること、または有形無形
の貴重な示唆を得ること。
ただしそれらも、完全な「偶然」ではなく、ひたむきさ
の貫徹が実を結んだ「必然」なのかもしれない。
人間は、完全に無目的で生きていけるものではないし、
目標があるからこそ頑張れるということもいえよう。
だが、一生のうちで学生時代くらいは、功利的な目標
はいったん脇において、気が済むまで知をきわめてみる
のもよいのではないか。
何よりモラトリアムの特権として。
そのように無垢な心性が、研究に有効なセレンディピティ
をしばしば引き寄せるのだ。

草間彌生『ナルシスの庭』