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ノブレス・オブリージュ
皆さんは、親の仕事を継ぎたいと思ったことがありますか?
「親の背を見て子は育つ」ということわざがあります。
もし、親と同じ仕事をしたいと自然に思えたなら、すばらしいこと
ですね。
親御さんは、黙って、その覚悟と責任をも教えてくださったので
しょうから。
昨日、近世までの制度としての「世襲」について話しました。
現在も、世襲が続いているのは、社会的地位が高い職業でしょうか。
政治家、医師、教育者、老舗(しにせ)の経営者などが思い浮かび
ます。
世襲自体は、日本固有の考え方ではありませんが、政治家に世襲
が多いのは、日本に特徴的な事象といえます。
一部では、批判もありますが、結局受け入れられている状態です。
俗にいう「3バン」は、政治家を支えるものとされています。
地盤(じばん)、看板(かんばん)、鞄(かばん)、すなわち
地元の後援者、知名度、資金。
これらが、選挙の際、世襲議員には有利にはたらく傾向があるのです。
無論、世襲=悪ではありません。
しかし、現在では、高い地位にこそ備わるノブレス・オブリージュ
が、あまり意識されていないようです。
ことばはキツイかもしれませんが、労せずして得たものを、どこまで
社会に還元する意思があるのか…
たとえば、先日紹介したモダンな武士・池田長発(いけだながおき)
は、日本国内が攘夷論に沸いているさなか、フランスへと赴きます。
開国につよく反対する意見を受け、いったん開港した横浜を鎖港
(さこう)すべく、フランス政府と交渉をおこなうのです。
ところが、現実のフランスのようすを目の当たりにして、池田は
翻意(ほんい)します。
帰国後に、「異国」を単に排斥するのでなく、見習うべき点は見習
わねばならない、と訴えるのです。
幕府が崩壊するまであと4年を残した1864年のこと。
それが、日本全体の将来を見据えたものであっても、相当に危険な
主張でした。
しかし、彼は、己(おのれ)の生命が己だけに属するとは、当然
考えなかったでしょう。
世襲のエリートが、真にエリートの役目を果たした時代の話です。

「ペンと剣」は、名門・開成中学、高校
(since 1871)の校章として有名です。