- 日本語空間
写真館のピストル
映画『合葬』の冒頭(ぼうとう)近くのシーンで、
主人公たちは、写真を撮ります。
時は1868年、江戸時代の終わりまでわずか4か月。
すでに1861年、鵜飼玉泉(うかいぎょくせん)が、
江戸に写真館をひらいています。
幕末の江戸には、いくつかの写真館が存在しました。
写真館で、彼らが手に取ったピストルは、撮影のため
の「小道具(こどうぐ)」であったと考えられます。
実際には、ピストルをほとんど手に取ったことがない
であろう士族の青年たちは、ポーズをつくりますが、
格好がつきません。
それで、照れ隠しのようにお互いを冷やかし合います。
歴史に名高い坂本龍馬(さかもとりょうま)は、普段
から、護身用(ごしんよう)にピストルを持ち歩いて
いたといいます。
しかし、写真館のピストルは「進取の気風(しんしゅの
きふう)」を演出するための飾り。
映画の主人公たちは、結局、撮影にピストルを用いま
せんでした。
彼ら3人は17歳。
なかでも、武士道に殉(じゅん)じ、最後まで剣を手放
そうとしなかった極(きわむ)は、新政府軍の銃弾に
倒れます。

※杉浦日向子『合葬』より
武士道に生きる極(きわむ)、学問の道に生きようとする悌二郎(ていじろう)とは
異なり、一見流されるように生きていた柾之進(まさのしん)だが…