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原動力としての好奇心

一昨日、ノーベル物理学賞に輝いた真鍋淑郎(まなべしゅくろう)氏は、

受賞後のインタビューで「60年間の研究の原動力は好奇心」と語った。


自身で、「恵まれた人生だった」と振り返る真鍋氏は、付加的な何か、

たとえば地位や名声を追うためにではなく、研究そのものを心から

たのしみ、熱中し、自然な結果としてふさわしい評価を受けたのだろう。


まさに、好きなことと求められることが、高度な次元で一致した幸せな

ケースだ。


御年(おんとし)90歳にして、現役バリバリの研究者であるのも、羨ましい

限りだが、その衒(てら)いのない稚気(ちき)あふれる笑顔に、胸が熱くなる。


1973年に、日本人としては4人目となるノーベル物理学賞を受賞した

江崎玲於奈(えざきれおな)氏は、若手研究者のためドイツのリンダウで

毎年開かれるノーベル賞受賞会議において、ノーベル賞を取るため

「してはいけない」リストを提案した。


そのなかに、「こどものころのように新鮮な好奇心を失ってはいけない」

がある。


おとなになり、知識や思考力が勝っていくのと反対に、社会的な地位や

常識に縛られ、想像の翼が用をなさなくなっていくのは、よくあること。


また、普遍性を有する科学の研究に従事する身にとって、自国の文化が

超克すべき対象になるのもめずらしくはない。


19世紀、第一世代の日本人科学者にとって、科学の研究は、封建的な伝統

文化に対する叛逆を意味した。


江崎氏も、前述のリストのなかに「自身の主義を貫くため、たたかうこと

を避けてはいけない」という項目を入れている。


インタビューのなかで、アメリカ国籍を取った理由を聞かれた真鍋氏は、

満面の笑みをたたえながら、アメリカでは、周囲を気にせず好きなことが

できる、つまり「日本で、周囲に同調して生きる能力がないからです」と

答え、会場の笑いを誘った。


処世に関する果敢な決断と、衰えを知らない好奇心が組み合わさった

ところに、稀有なチャンスは舞い降りる。


このコメントを聞いて、「自分は笑えなかった」、「切実だ」、

「考えさせられる」という意見が、日本人のあいだで聞かれたのは、

無理からぬことかもしれない。












2021.10.7

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