- 日本語空間
持って回った言い方
先週から授業を再開した学習者の方とおこなっている
「聞き取り」の練習が、非常に興味深く、あらためて
色々なことを考えさせられます。
授業では、ビジネスの場面における生教材を用い、
日本語の正確な聞き取りと、コンテクストの読解に
取り組んでいます。
その方にとって、ビジネス会話で難しいのは、話すこと
より聞くことだそうです。
つまり、自身が、日本語の教科書で学んだ通り、正確な
表現をすれば、やや硬くても意味は通じますが、日本人
の同僚が話す日本語は、教科書とはかなり隔たりがある
ため、「真意」がつかみづらい、と。
そこで、何が難しいのかを分析したところ、実際には発話
しているのに、特に意味がない部分や、「持って回った
言い方」だとわかりました。
特に会社の同僚、チームのように、なじみがあり一体感の
ある関係では、曖昧な表現をしても、意思が通じてしまう
ため、当該の表現をすることで、近しさを共有したい気持ち
が生じるのでしょう。
たとえば、発話の冒頭で「あれですよね」といった場合、
部外者からは、一体何を指しているのか? わかるはずも
ないですよね。
しかし、仲間内では、その「あれ」を、心の内にすぐ思い
浮かべることができます。
また、「あれですよね」といいつつ、次のフレーズを自身の
頭の中で探っている場合もあります。
さらに、教科書的に「それは~です」と、かっちりまとまらない
「それって~ともいえるんじゃないか、ということにもなって
きてですね」といった膠着語(こうちゃくご)特有のうねうね
した表現は、捉えようとするそばから逃れていってしまう。
そして、「てか」、「なんか」、「みたいな」というような
特に意味のない表現が、早口で話されると次に出てくる表現
とつながり、別な表現と勘違いされるなど、悩ましいこと
この上ない。
大切なのは、徐々にスキャニングがおこなえるようになり、
全部を聞き取るのでなく、重要なポイントをつなげ、意味を
類推できるようになること。
話すことにおいては、特に、学習歴がさほど長くない場合、
日本人の持って回った言い方を、そのまま真似する必要は
ありません。
ところで、持って回った言い方は、親しさを表す以上に、
ストレートな物言いがしづらいときに使われるので、要注意!
最後に、カジュアルな印象の話し方でも、「要(かなめ)」の
部分に使われるのは、“漢語”(カタカナと結びついたジャーゴンも)
であることを指摘しておきます。
→ビジネス、学術を含めた公的場で。
無論、慣れてくるにつれ、全体的にこなれた表現ができるように
なるでしょうが、まずは、「適切な漢語づかい」といった要所を
押さえると、それだけでもスマートな印象を与えられます。

「茶亭 羽當さてい はとう」(渋谷)