時折、小さな通りの古本屋をのぞきます。
神田の古書店街のように、本屋が軒を連ねている
場所ではなく、洋食屋や花屋、リサイクルショップ
といった店の間に、ぽつんと一軒ある本屋です。
それが意外にも掘り出し物が多く、廉価でいわゆる
激レア(俗語で失礼)本が手に入ったりします。
希少価値というほどではないものの、表のラック
に並べられた ― 統一感のないバラバラさが楽しい
― 100円均一(!)の古い画集の中に興味を引く
表紙がありました。
日本髪を結った着物姿の女性が、うつむいて何か
をしています。
よく見ると氷を削っていて、その下にはシロップ
が置いてあるのです。
近世の香りを残した過渡期としての近代とでもいう
べきか。
古風さとモダンなテイストが相まって醸し出され。
女性が、この仕事をしているのは、あるいは客引き
的、「看板」の意味もあったと想像されます。
それゆえ、見ている分には涼しく、きれいでも、
労働者としての個人には過酷な面もあったのでは
ないでしょうか。
作者は、三大美人画家※と称され、戦前から活躍
をした鏑木清方(かぶらききよかた)。
1878年、東京の神田に生まれた彼は、ジャーナリスト
の父とは対照的に浮世絵師を志し、失われゆく江戸
情緒を愛惜しました。
日本では古くから冷蔵の手段として氷室(ひむろ)
が使われていました。
夏期に天然氷が販売されるようになったのは、近代
のことであり、かき氷(シロップをかけた)が
つくられたのは、1860~70年ごろのようです。
日本で初めてアイスクリームを食べたのは、何と
今から160年前の武士でした。
1860年に、江戸幕府が日米修好通商条約の批准の
ため派遣した使節団は、船中の晩さん会で初めて
それを口にしています。
「めずらしきものあり。氷をいろいろに染め、
これを出す。口中に入れると、たちまち溶けて、
まことに美味なり。これをアイスクリンという」。
「氷店」(8月)
『明治風俗12ヶ月』より
※近代の三大美人画家として、他に
上村松園、伊藤深水がいる。
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