- 日本語空間
活字化―(1)己だけのかけがえのない財産ー
一昨日の晩、新規の学習者のカウンセリングを行った。
その方は、来春、日本の大学院への進学を希望している。
日本の大学を卒業し、現在も、日本で仕事をしているが、
大学院に合格したら研究に専念するつもりだという。
他大学の大学院に進学するため、情報が不足しており、
試験の難易度が上がることを覚悟している。
また、大学では、卒業論文を書いておらず、代わりに作品
発表(展示)だったので、長い論述の経験がない。
日本語の会話は、非常になめらかだが、一人で研究計画書
を作成するのは困難とのこと。
カウンセリングの中で、受験前、主査になってもらうことを
希望する教授の研究室を訪問するとき、研究計画書を持参
してもよいか? と質問された。
答えは、「適切でない」である。
院試の前、研究室を訪問したことが、合格の成否に結びつくか
という問いに対しては、どこの大学院も、基本的に、それは
加味しないという立場を取っている。
ただし、大学院では、教員各々の采配が強く、把握しえない
事情があるのも、悩ましいところではある。
いずれにしても、積極性をアピールするのはよいが、あまりに
「お願いします」的な態度が前面に出ていれば、かえって
引かれてしまう可能性も少なくない。
終局、何より求められるのは、会話を含めた身体での表現でなく、
「書かれたことば」で示すことなのだ。
逆にいえば、研究計画書や、試験時の論述が卓越しているなら、
会話が流暢でなくとも、試験を通過する可能性はきわめて高い。
博士課程で、研究科長の先生とお話ししたとき「活字化したもの
を増やしてください」とアドバイスされた。
考えてみれば当然すぎることを、しかし、面と向かってさらっと
いわれたのは、心に刻まれるありがたい経験だった。
大学院に入りたてのころは、まずは、眼前のことで精一杯だ。
きちんと授業に出席し、順番が回ってきたら、そつなく発表が
できるだろうかと案じ、きりきりしてしまうかもしれない。
しかし、学内で良い成績を取っても、それだけで卒業してしまう
のはあまりにも惜しい。
だから、学会に所属し、投稿論文に挑戦しよう。
実は、このような活字化、つまり研究業績を増やすことに関しては、
留学生は、日本人より機会に恵まれているともいえる。
日本の学会に、論文を投稿するのもよいが、母国における同じ分野
の学会に所属し、母国語で論文を投稿することもできるからだ。
そのような業績は、将来、仕事を得る際、他を引き離し、抜き出でる
のに必ず効力を発するだろう。
有限な、二度とは戻らない時間を貪欲(どんよく)に。
一歩前へ!

ソーク研究所(カリフォルニア)
ジョナス・ソークにより創設された世界の
最先端を誇る生物医学研究所。
非営利法人の機関ながら、多くのノーベル賞
学者を輩出している。
設計は、ルイス・カーン。