人間は、長い人生のうち一度くらい、生きる価値を疑う
こともある。
私にとって、それは、高校生のときに訪れた。
思春期特有のではなく、個別的な家庭の事情によるもの
だったので、友だちに相談することもできなかった。
そんな心情を抱えたままおとなになったが、はたちのとき、
思い切って一人で海外旅行に出た。
そこは、活気にみちた港町…!
島国の内陸部で、おのずと文化の内に落ち込んでいた眼に、
異種の事物がめまぐるしく循環するエネルギッシュな空間は、
刺激と同時に気づきをもたらしてくれた。
そのときから現在まで、自文化の「外」は、私を生かし
続けてくれている。
だから、縁が生じ、こうして異文化の玄関たる港町に
やってきたのは、精神的な帰郷のように感じる。
海の向こうにも、人間がいて、異なる文化を有し、異なる
ことばを話している。
そのことこそ、私にとっては、恩寵(おんちょう)であり、
生きる意味でもあるのだ。
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