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潔(いさぎよ)く
世の中に絶(た)えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし
在原業平(ありわらのなりひら)
平安時代の和歌です。
もしこの世に、桜の花というものが存在しなかったら
春におけるひとびとの心は、のどかだっただろうに、
という意味。
桜は、姿かたちの美しさだけでなく、パッと咲いて
パッと散るというような咲き方 ――
その潔(いさぎよ)さや儚(はかな)さが、長く
愛されてきました。
現在でも毎春、各地における開花予想が出され、
満開の時期に立ち会いたいひとびとは、気が気では
ありません。
しかし、今年は、年に一度のお花見にも自粛が求め
られています。
このような時期に、お花見をしていた総理大臣の妻が、
国民の非難を浴びました。
大人数で桜を見ながら、酒宴を張って盛り上がりたい
気持ちも、頭では理解できます。
しかし、あまりそれにこだわっては、花への愛着では
なくイベントへの執着、といわれても、しかたない
かもしれません。
今年は、時節を知る個人が、通りすがりに桜花を目で
追うくらいが、潔く風流なのではないでしょうか。

武蔵(むさし)と小次郎(こじろう)
井上雄彦『バガボンド』より