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つかのま
留学生の皆さんは、「束の間(つかのま)」ということばを
聞いたことがありますか。 「束」は、手の指4本分に該当する幅の単位で、その長さから わずかな時間を意味します。 目の前のできごとにとらわれていると、巨視的なものの見方が
できなくなりますが、私たちに与えられた時間は有限です。 いきなりこんなことをいうと、否定的に響くかもしれませんが、 客観的な事実ではあります。 なぜこんなことを書いたかというと、博士論文を執筆していた
とき、無我夢中で取り組みながら、完成時には、うれしいという
より抜け殻のようになってしまった記憶が残っているからです。 すごいものを書いてやる、と意気込みながら、できあがった現物
には満足せず、砂上の楼閣でも夢見ていたのかとわびしくなりました。 そのとき、道は果てしなく遠いことが痛感されたのです。 つまり、時間とエネルギーを相当にかけても、結果はその分だけ
出るとはかぎりません。 歴史上の偉大な思想家も、知の深淵が、人ひとりの人生では到底 きわめられないことを嘆いています。 しかし、私自身は、そのように才能にあふれているわけでもなく 回り道をしたからこそ、有限な時間の中で、理想に向かい
「もがこう」と考えられるようになりました。 パンデミックの拡大で世界が揺れている現在。 春は、新年度の始まりですが、今年は諸事が停滞しています。 ですが、このような危機のときこそ何ができるかを考え、
すみやかに行動を起こすべきではないでしょうか。 通常の生活が戻ってから活動を開始するのでは、遅すぎます。 100%納得のいく結果のためには、120%を目指しても、欲ばり
すぎるということはありません。 私たちは、つかのまこの世界にとどまります。 そして、つかのま自分自身で、あるいはだれかと結び、何かを
成しとげたり、生み出したりします。 この仕事にたずさわる中で、数多くの留学生と出会いました。 共有する時間は短くても、たとえ二度と会うことがなくても、
結ばれた有形無形の事象はかけがえのないものです。 これからも、そんな「つかのま」の時間を輝かせたい、と願って
やみません。
