- 日本語空間
手仕事
著書『漂うモダニズム』で、槇文彦氏は、建築のデザイン
の過程を、一人の建築家の頭脳のなかで「理性と感性の間断
(かんだん)なきキャッチボールによって生まれてくる」と
表現しています。
AI時代の到来が、真実味を帯びてきている現在。
淘汰(とうた)されずに生き残る強靭(きょうじん)な「知」
とは何か? と問うとき、そのようなキャッチボールから、
人間が生み出す「何か」が、リアルに感じられます。
前回紹介した田中智之氏のボールペン画は、あたかも建造物の
「レントゲン」のようでした。
驚くべきことに、田中氏は、描くまえにコンピューターは使用
しない、といいます。
なぜかというと「必要ないから」。
まずは、鉛筆でドラフトを作成し、注意深くペンで仕上げていく
そうです。
情報を1週間で整理し、描くのに要するのは、わずか1週間。
肉体に備わった「理性」的な透視眼の精巧さ!
一方で、設計とは異なり、対象物はすでに現前するものの、
いかにそれを表現するかという「感性」も、当然、動員されます。
その力量には、瞠目させられますが、確かな存在感を放つ空間
をささえているのは、手仕事への情熱なのではないでしょうか。

熊本大学 田中智之研究室
(施工:相互運輸 三善建設)
熊本地震発生から2か月後に、熊本大学で立ち
上げられた復興プロジェクトにより、公園の
敷地内に建てられた。
※『新建築』2017年9月号