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空震(くうしん)
普段私たちは、そうとは意識しないで、
大気の中に生かされています。
「生かされて」と使役形をもちいたのは、
人間中心主義の時代を長く経た現在、
この事態が当然ではない、と考えられる
からです。
ペーター・スローターダイクは、
「大気=呼吸テロリズム」の開始を、
近代という時代に認めています。
周知のごとく、それは当該の時代に起きた
世界大戦と密接な関係があります。
「大気解明のプロセス」としての近代は、
その中で自然にふるまい、くつろげると
考えられた環境としての大気を、一変
させました。
今回、covid-19の世界的な流行には、
おなじみの陰謀論なども登場しましたが、
国家間が疑心暗鬼に陥り、危機を招くので
あれば、戦争に類似した状況であると
いえなくもありません。
スローターダイクは、現在の状況を先取り
したかのように、的確に断じています。
「20世紀が過ぎ去った今、“空気の申し子
としてのホモ・サピエンス”という仮説が、
最終的に実践的な輪郭を獲得するに至った」。
地震は、私たちが日常的に体験するものです
が、「空震」は、はっきりと認識する機会が
ほとんどなく。
しかし、そのふるえは、目に見えないから
こそ一層、ひとびとの心を恐怖で満たしつつ、
伝播(でんぱ)していくかのようです。
そうであればこそ! 素朴でいられた時代を
なつかしんだところで、何かが変わるわけ
ではないから。
私たち一人一人が、能動的に考え、行動する
ことが、今こそ求められているのではない
でしょうか?

※テキスト
ペーター・スローターダイク
『空震――テロの源泉にて――』仲正昌樹訳
お茶の水書房(2003)