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みじかい青春の形見(かたみ)に

この季節になると、メディアが報じる卒業の風景に、

岐阜(ぎふ)県高山市の斐太(ひだ)高等学校で、

毎年おこなわれている「白線流し(はくせんながし)」

がある。


在校生と教員、親が対岸で見守るなか、卒業生の男子は

学帽の白線を、女子はセーラー服の白スカーフをはずし、

大八賀川(だいはちががわ)に流す。


岐阜県の飛騨高山(ひだたかやま)といえば、世界遺産

である「白川郷(しらかわごう)」を思い浮かべる人も

多いだろう。

自然の豊かな山岳地帯で、江戸時代の面影を残す歴史的な

建造物が多く保存されている土地である。


「白線流し」は、このような場所ならではのゆかしい儀式

と感じられたが、一方で、背後に流れる曲の“哀愁”を帯びた

メロディが気になり、由来を調べてみた。


同校は、1886年創立の伝統を持つ名門校。

動画のなかで、張られた幕には、校訓の「切磋琢磨(せっさ

たくま」が書かれており、おのずと硬派な雰囲気を醸し出して

いる。


「白線流し」は、大正時代に、授業をボイコットし退学処分と

なった生徒が、白線を川に流して立ち去ったのがルーツとされる。

いわゆる「大正デモクラシー」を象徴するような出来事ともいえ

よう。


儀式の最中に流されるのは『巴城ヶ丘(はじょうがおか)別離の歌』

で、第二次世界大戦末期、戦地へ赴く学友への惜別歌として、

在校生によりつくられたものだという。


ただし、すこしでも「反戦」の意が認められれば、当局に目を

つけられるため、真意を伏せて歌われたものが、時代が変わった

今も歌い継がれている。


くわしい事情を知らずとも、初見で、継承されてきた儀式には、

特別な来歴があるのではないかと察せられた。

そして、真実を知ったのちには、歌にこめられた先人の想いが

身にしみたのである。


画面に映る高校生たちの表情は、屈託なく、未来への希望に輝いて

いる。

だが、そうであるからこそ、ふたたび青春を無残に散らせるような

過ちを犯してはならない、とつよく思わされたのだった。


       上流から流された白線は、下流ですべて回収されるそうだ。


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