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  • 日本語空間

自空間を超えて


もう秋になるというのに、夏から続いている宗教と政治の癒着

に関する問題が、終息する気配を見せない。


こんな折に、タイムリーというか「中世の争乱と肥大した信仰」

をテーマにしたチェコの映画が上映されていたので、近隣の

ミニシアターに足を運んだ。


『マルケータ・ラザロヴァ―』(1967)は、チェコ・ヌーヴェル

ヴァーグの巨匠、フランチシェク・ヴラーチル監督による「チェコ

映画史上最高傑作」といわれている。

それが、55年の時を経て日本初劇場公開というのだから、いやが

上にも期待が高まる。


舞台は13世紀半ば、動乱のボヘミア王国で、修道女となることを

約束されていた少女マルケータは、領主とは名ばかりの父ラザル と敵対する盗賊グループの頭領の息子に拉致される――。


キリスト教徒対異教徒の構図となっており、後者の服装、生活様式

やふるまいの方が、一見荒々しく描写されているが、結局は力と

力の張り合いで、覇権をめぐる容赦ない殺戮においては、キリスト

教徒も野蛮さ? において引けを取らない。




「肥大した信仰」という部分に、関心をひかれたのだが、想像した

より宗教色は少なく感じられた。

人物の相関関係が複雑ながら、ストーリーを追うのでなく、

タッチに身をゆだねて堪能すべき一編(まさにフィルムオペラ)

といえるだろう。



大胆にしてエネルギッシュ、崇高にして過剰。

そして、時折、圧倒的に目を引く美しい画面が差しはさまれる。

たとえば、連れ去られていく荷台の上のマルケータや、彼女が

修道院の床にうつぶせに身を投げ出したショット。

実際には、悲惨とも悲壮ともいえるのに、その一コマが時間を

静止させる。

『マルケータ・ラザロヴァ―』の原作は、チェコの作家、

ヴラジスラフ・ヴァンチュラの小説である。

彼は、カレル大学の医学部卒業後、医師として働いていたが、

1929年から作家活動に専念。

その後共産主義に傾倒し、1930年代後半、反ファシズム運動に

参加したことで、1942年、ゲシュタポにより処刑された。


ヴラジスラフ・ヴァンチュラについて知らなかったのは、

不勉強というべきだが、映画をみる前に、彼について

知らなかったのはかえってよかったのかもしれない。


詳細な予備知識など持たずとも、時間や空間を超え、訴え

かけてくる画面の重み。

本国でも、上映を20年間封印され、1989年のビロード革命を

経て日の目を見たという作品に接せるのは、何と得難い経験

であるか。


一見隔たった中世の信仰と、近代の共産主義について考えて

みたくなった。


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