つい先日読み始めた『生物と無生物のあいだ』は、
読解用のテキストとして、生徒さんから提案された
ものです。
ひとびとがウィルス感染に揺れている折も折、朝日
新聞のデジタル版に、同書の著者である福岡伸一
さん(青山学院大学教授)のインタビューが載って
いました。
『生物と無生物のあいだ』で、福岡さんは、ウィルス
を「生物と無生物のあいだをたゆたう何者か」と表現
しています。
もし、生命を「自己複製するもの」と定義するなら、
ウィルスはまぎれもなく生命体である。
ウィルスは、細胞に取りつき、そのシステムを乗っ取り
寄生虫のように自(みずか)らを増やしていく。
しかし、ウィルス粒子の単体を眺めれば、機械的オブジェ
のようであり、そこに生命の「律動」はない、と。
ウィルスが、生物か無生物かという問題は、学界では
長らく論争の的(まと)であったそうです。
しかし福岡さん自身は、ウィルスを生物であるとは定義
しない、といいます。
専門的で高度な学識をわかりやすい説明にかえ、福岡さん
はそれを、砂浜に在る同じような色をした「小石」と
「小さな貝殻」の違いに例えています。
小石も貝殻も、原子が集合して作り出された自然の造形
であり、どちらも美しい。
けれども、小さな貝殻が持つ美の形式は、「秩序」が
もたらす「動的」なものだけが発することができるのだ、と。
※テキスト
福岡伸一『生物と無生物のあいだ』講談社(2007)