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猫から人へ

事務所に迎えた保護猫に出会ったのは、今から

ちょうど2年前の5月。

旧事務所の敷地内で、生まれたての子猫たちが、

よちよち歩き回っていた。


3月の終わりごろ、建物の裏手にある草原で、

1匹の猫がよく日向ぼっこしているのを見かけた

が、後になり、それが母猫だったと判明した。


自動車が入れない路地の奥にあり、閑静だった

ので、母親は、本能的にその場所を選んだと

思われる。


体の模様の異なるきょうだい猫たちは、元気に

追いかけっこなどしていたが、中でも好奇心の

強い1匹が、事務所に遊びに来るようになった。


背骨が透けるほどガリガリに痩せているのが

不憫で、えさをあげると、決まって朝と夜の2回

顔を見せる。


猫を飼った経験もないし、愛猫家などからは

ほど遠いが、コロナで仕事がすべてオンラインに

切り替わったこともあり、事務所にいる時間が

長くなったおかげで生じた縁だった。


目の調子がいつも悪かったので、良くなってほしい

との願いから「メメ(目目)」と名づけたその猫は、

ある時1日半ほど姿を見せず、何が起こったかと心配

になった。


だが、再び何事もなかったかのように現れたメメ

は、無惨にもその耳に切れ目が入れられていた。

「しまった!」と思ったときには手遅れで、つまり、

彼女はTNRの罠に落ち、不妊手術を受けさせられて

いたのである。


あり余るほど元気でやんちゃな性格だったので、

雄猫ではないか? と勝手に推測していたのだが、

切られた方の耳が左だったことから、雌猫だと

わかった。


もし、その事件がなければ、メメを受け入れること

はなかっただろう。

それからまもなく、母猫が姿を消し、メメは事務所

に居ついてしまった。


悩んだ挙げ句、猫が飼える物件を探し、引っ越しを

することとなったのは、秋も深まるころ。

あれから1年半が経つ。


いわばコロナが縁で、猫と共生するかたちとなったが、

今でも、何が動物にとっていちばんよいのか、日々

模索している。


保護したつもりで、外で飛び回る自由を奪い取って

しまったのではないか? とは、いつも生じる疑念だ。

だが、外に出したら、捕獲され「殺処分」の対象になる

おそれがある。


野性味の強かったメメは、今ではすっかり甘え気質

のひとり(一猫?)ではいられない性格になって

しまった。


猫がいなければ、もっと仕事や研究に集中できたこと

は確実だし、そのようなまったき「理想」を追求する

道もあっただろう。


だが、主義としてのミニマリズムが高じ、無機的すぎる

生活にならずに済んだのは、猫のおかげと痛感している。

ことばが通じないため、相手が何を考え、感じているのか、

ノンバーバルなコミュニケーション能力が鍛えられる。


そんな猫から人への問いかけ――


無意識に、エゴイスティックになっているであろう部分を、

猫からたしなめられているのかもしれず、つど己を振り返り

ながら、この世で生きる修行をさせてもらっている。



2022.5.31

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