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「スケール」考

深さ1000メートルの鉱山の立坑の入口からハツカネズミを

投げ落とすと、ハツカネズミは底に落ちた瞬間、わずかな

衝撃を受けるが、そのままどこかに逃げ去ってしまう。

だが、ドブネズミの場合は死に至り、人間はバラバラになり、

馬はもはや姿をとどめない。

J・B・S・ホールデーン『可能な世界』


何かを成し遂げようとするとき、そのスケールは、事の成否に

関わってくる。

イギリスの生理学者で社会主義者でもあったホールデーンは、

上述した例を挙げ、さまざまな大きさの動物が生存できるか

どうかは、個体の生理機能だけでなく生態環境にも左右されると

指摘した。


その上で、「特定の産業が国営化される可能性は、明らかに

大きな国家ほど高いのに、イギリスやアメリカが完全に社会

主義化されることを想像するのは、象が宙返りしたり、カバが

垣根を飛び越えたりするのを思い浮かべるよりむずかしい」

と述べている。


たとえば、コロナ後、日本でもカタカナ語として定着した

「スタートアップ」企業は、大企業に比し、資本や安定性は

乏しいものの、自由度や柔軟性の高さにより注目を集めている。


換言すれば、本体が小さい分、俊敏で「小回りが利く」という

ことだ。


さて、あまり意識されていないが、論文にとっても「スケール」

はたいせつな要素だ。

あえて言い切るなら、分野にかかわらず、スケールは小さいより

大きい方がよい。


特に、単に審査をパスするのでなく、良い評価を得たいなら、

小さくまとめた無難な論文より、多少こなれていない部分があろうと、

その先を予感させるようなスケールのある論文を書くべきである。


ただし、ここでいうスケールとは、物理的に長大な文章を意味する

のでない。

書かれていない先にまで連なるような、開かれた眺望を有する論文

を指す。


実際デッサンの時点で、いったんは「拡散」を意識しつつ、世界を

大きく切り取った後、「収斂」させる=まとめる作業に入れば、

将来的にも煮詰りづらい。


無論、完全に自己流の粗雑な手法はNGだが、枠を最初から意識し

すぎるのは、可能性をせばめることでもある。


ひとつの研究は、時に領域を越え、別な研究に連なっていく。

次に渡すバトンは、自分自身が受け取るかもしれないし、一生

会わないような誰かが、それをつないでいくかもしれない。


むしろ、それを可能にするための「スケール」が求められているのだ。


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