先週の大雨に何とか持ちこたえた桜が、わずかな蕾を残して
ほぼ満開であるのを、昨日目にした。
いつも通る道で必ず目に入る樹ながら、見事に咲き切るのは、
1年にわずか数日足らずだと思いしみじみする。
同じ桜であっても、青空の下で見るのか、夜の暗がりの中で
見るのかで風情はかなり異なるものだ。
ピンクの色や、ほのかな香りは優しく、明るい日中(ひなか)
にも似合うけれど、日本人は、宵闇に浮かび上がる幽玄な姿を
より愛でてきたのだった。
あたかも、この世とあの世の境に束の間佇む―
名残を惜しむように、1枚また1枚、はらはらと散っていく前の
その姿を。
殷殷と鬱金桜は咲きしづみ今生の歌は一首にて足る 塚本邦雄